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そこには合わないから

 通勤途中の靖国通りで地面のタイルを剥がしている人に遭遇した。
紫のもんぺ姿から想像すると、サラリーマンの酔狂で地面のタイルと対峙しているわけではなく、ほぼ間違いなく専門の業者であることが伺える。
 その男は、丁寧に一つずつ剥がしては、道の脇のスペースに重ねて置いていく作業を繰り返していた。黙々と。
 長めの信号であるその悪名高き交差点で、やはりその日も例に漏れずに足止めを食らっていたのだが、その男の流れるような一連の所作に美を感じ始めていた。とそのとき、ふと流れが変わったことに気がついた。
 歩行者信号はまだ赤のままだった。男は、ゆっくりとした動作になり、時々首を傾げながら剥がしたばかりのタイルを右に左にゆっくりと回転させ始めた。
 何が起こるのか、信号はまだ赤のままでいてくれるのか、あぁ気になって仕方ないじゃないか。もうじき本格的な冬が訪れるというのに、そのままだと道路が風邪を引いてしまうじゃないか。なんてロマンチックな事を想像する余裕があるわけもなく、刻々と迫る容赦の無い青信号へのカウントダウン。
 駄目だ、あの美しい所作はどうした?と、いてもたっても居られなくなり、
「どうされたのですか?」と聞いてしまっていた。
 男の返答に過度の期待を持つことは、これまでに何度も経験してきた苦い思い出のおかげで自制する事ができそうだ。
「これかい?合わないんだよね、最後の一枚がどうしても。」という予想をはるかに外した回答を怪訝そうに言った。男は続けて、
「だから、途中どこかで配置を間違えたに違いないと思って後戻りしているところさ。もうこの辺りかなと思ってさ。
 遅延性レベルの相当高い、後からじわじわと押し寄せる衝撃的な回答に押しつぶされそうになる自分を奮い立たせ、ようやく口を開いた。
「つ、つまりコレを実際にやっているのですね?」
 周りにキョロキョロと目を泳がせながら、差し出した「コレ」を一瞥して、
「そうそう、それ、それ。そんなやつ。昔っから好きでさ。でもやり直している事が親方にばれると面倒なことになるから、内緒な。」と、ジェスチャーを交えながら遠くで別の作業をしている親方を目視で捕らえてから言った。
 信号は既に青に変わり、その短い寿命を全うしようというところだった。取り急ぎ男に健闘を祈ることを伝え、進行方向にいる親方の横を通り過ぎようとしたとき、「あれぇ、違うなぁ」と呟く親方のその両手にはタイルが握られていた。

- 了 - 拍手コメントを見る

コメント

解決できた!

結構時間かかりました。でも解けて良かったです。

名作!

うーーん、名作!
久々に(失礼!)秀逸な雷ブではあった。
#影ながら楽しませて頂いております。

おちのパターン

>らんらん
結構難しいよね。
結構昔から好きなのは「タングラム」(URLを参照してちょ)です。
先日100円ショップのダイソーで見つけて購入!
喜びもつかの間、説明書には「箱に戻せるかなぁ!?」という手の内容のみ。がっかりしました。。

>のじじさん
巨匠!巨匠に遊びに来ていただけるなんて幸せ者です。
色々とオチのパターンを考えていたのですが、本文書いている最中に転寝してしまって、最後は思考回路もまとまらず、えいやっ!と送信してしまっておりました。日々、見かけたものとかでネタを膨らませているので、次回作はグレードアップして帰って来ます。たぶん。

No title

最後良い落ちついたなー
おもしろかったわww

ありがとうございます。

> defectiveはちみつ さん
はじめまして。
コメントありがとうございます。
まさか、こんなのに評価いただけるなんて。
喜んでいただけたようでよかったです。
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